時期設定:約8年前
ゴルイグの短い遣り取り。
イグレーヌは半ば試すような心持ちで、目の前の男に呼びかけた。
「・・・ゴルロイス・・・」
「・・・・・・・・・?」
(!!!)
男の表情に僅かな変化の兆しが見られたのをイグレーヌは見逃さなかった。
「“ゴルロイス”・・・貴方の名前ですか?」
「・・・名前・・・?おれの・・・?」
そう呟いて男は暫し考え込む素振りを見せるが、軽く頭を振ると観念したように俯いた。
「・・・ダメだ・・・思い出せねぇ・・・」
「・・・そうですか」
イグレーヌはそこで諦めの溜め息をつく。
「・・・けど、」
「?」
「・・・どこかで、聞いたような・・・そんな気はするんだが・・・
いや、分からねぇ・・・おれの、気のせいなのかも・・・」
判然としない答えはいつもの通りだった。
だが、何かを諦めきれないような、
必死に何かに縋ろうとしているこの男の様子は―――
おそらくこの言葉は、この『ゴルロイス』の名は、
記憶を失った、目の前の男と何らかの関わりがある。
イグレーヌは内心でそう確信していた。
「・・・貴方が所持していた書状の中で、唯一、判読が可能だった文字群が・・・“ゴルロイス”でした。
おそらくは貴方が記憶を失う以前に、名乗っていた名前ではないかと思います。」
「・・・そうなのか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・よいですか?」
「・・・ん?」
「・・・貴方を・・・この名前でお呼びしても・・・」
躊躇いがちに、目を伏せながらイグレーヌは問いかけた。
「・・・ああ、構わないさ。どうせ何も・・・覚えていないんだ。
まあ正直・・・あまりいい名前だとは思わないが・・・
それがおれの名前だっていうんなら、仕方ないだろうしな・・・。」
他人事のように、軽く笑う。
「・・・分かりました。これからはそのようにお呼びしましょう・・・ゴルロイス。」
その5つの音が吐息に乗って唇から零れた瞬間、
ジクンとした胸の疼きを感じて、イグレーヌは僅かに眉をしかめた。
拙宅では「ゴルロイス」は本人が用意した偽名ということにしています。書状は偽の身分証明とか。
最初は普通にナバタで付けられた暫定名かと思いましたけど、イグレーヌやホークアイの名前と比べてもどうも言語的に共通性がないというか。それ以前に「もうちょいマシな名前つけてやれよ」って感じだし…。
(まあ長老が、大切な護り手一族の娘についた悪い虫に敢えて嫌がらせしたって線も考えられなくはないですが(苦笑)。)
まじめ少女とおっさんの組み合わせが大好物。オスティア愛。アラサー。